医師のバーンアウト
もう、40年近く前のこと。
看護師の国家試験に合格したその年、私は学校に通いながら看護師の夜勤のアルバイトを始めました。
当時は、ナースステーションではなく、「看護婦詰め所」。
その詰め所でのこんな会話を、今でもはっき覚えています。
「〇号室の患者さんが昨日亡くなったから、〇〇先生は今日から3日、お休みだねぇ」
会話に登場した医師は、当時40代の半ば。
朝、夕、必ず病室を訪れ、患者さんの話しをよく聴き、皆に慕われる人気の医師でした。
当時は、今のような病院の機能分化が進んではおらず、2か月、3か月の入院は当たり前。
その医師と患者さん、家族との関係は、他の医師よりも濃密だった記憶があります。
そんなことも影響してか、もともとの繊細なパーソナリティーの成せるわざか、血液内科が専門だったその先生は、受け持ちの患者さんが長い闘病の末に亡くなると、翌日から出勤せずお休みするのが暗黙の了解になっていました。
多死時代を迎え、医師不足に喘ぐ今ではとても考えられない光景。
受け持ちの患者さんが亡くなった後に休暇を取るのは、先生なりに一区切りつけ、再び診療に向かうエネルギーを充填するために必要だったのだと思います。
「人として患者さんに真っ向から向き合っておられたんだなぁ」と時々、ふとその先生を思い出しています。
先日、ふとこの先生のことを思い出し、記憶の糸をたぐっていたところ、こんな記事を目にしました。
看護師、福祉現場の援助職に関しては、以前からバーンアウトが問題視されていましたが、これに比べ、長らく医師はバーンアウトしないと考えられていたそうです。
しかし、パターナリズム的な医師ー患者関係から、患者さんとフラットな関係に変化し、医師はこれまで以上に幅広い配慮が求められています。
このようなサービスの質の変化とストレスの増大が医師のバーンアウトを増大させているそうです。
日本の脳神経内科医934人の実態調査では、約40%にバーンアウトの症状がみられたと報告されていました。
対策として重視されているのは、個人のレジリエンスを高めるだけではなく、組織的な対策が不可欠とか。
過重労働を防ぎ、多様な働き方を選択できるなどの労働環境の組織的な改善が提言されていました。
昨今、医師の労働環境の改善に向けた取り組みの記事を目にすることも多くなってきました。
こうして考えてみると、遠い記憶のなかの医師も、バーンアウトに陥らないよう、ご自分で対処なさっていたのかもしれません。
何やら最近では弁護士もバーンアウトも問題になっているようです。
職種を超え、「人を支える人」や「ケアする人」をケアするしくみが必要になっていることを痛感したのでした。