相手の強い感情、言葉に怯みそうになるとき
調べもののために少し前の雑誌のページをめくっていたら、訪問看護師さんが書かれた記事に目がとまりました。
「あんたたちが来たってやっぱり何かあれば救急車よ」「看護師に何ができる?」「血圧を測って僕の何がわかるの」「お金かかるんでしょ」「俺のつらさはわからんでしょ」。よくこんな言葉を口にする利用者に出会います。正直、怯んでしまうこともあります。そんなときは、自分の気持ちを受け止めつつ、ふーっと、鳥になって上から眺めている場面を想像します。そしてその場の空気を感じ、呼吸を相手に合わせ、しっかりと目を見て、利用者の言葉をただ短く繰り返します。
加藤裕子:訪問の合間に一句詠んでみる 訪問看護泣き笑い川柳 p48、コミュニティケア18(09)、2016、日本看護協会出版会
原則たった一人で利用者さんの居宅に出かけて看護サービスを提供する訪問看護師さん。
利用者さんの多くは、入院中とは異なる一面を見せてくださいます。
病棟では言葉に出せなかったさまざまな感情が一気に噴出したり、訪問看護師さんがどこまで自分を支える覚悟があるのかを試してみたり。
利用者さんの自宅で、一人でこうした感情を受け止めるのは、プロとはいえ本当につらいものがあります。
「逃げ出したい」そう思っても、何とかその場に踏みとどまり、対話を続けていかなけえばなりません。
筆者の加藤裕子さんは、そんな時のヒントを紹介してくださっています。
短い言葉のなかにエッセンスがたくさん。
①自分の「困った気持ち」を認める、キャッチする
「自分の気持ちを受け止めつつ・・」
まず、自分が発する「これは困るパターンだ」というサインを素早くキャッチするということですね。始動が遅れると、ズルズルと状況に巻き込まれてしまいます。
②状況を俯瞰してみる
「ふーっと、鳥になって上から眺めている場面を想像します。」
利用者さんと対面しつつも、自分の頭のなかでは距離をとって、この状況を俯瞰してみるということですね。「俯瞰すること」これは、圧倒されたり、巻き込まれることなく対応するためのポイントのように思います。
③相手に波長を合わせる
「その場の空気を感じ、呼吸を相手に合わせ・・」
俯瞰することによって距離を保ちつつも、距離を保ち続けるのではなく、空気を感じたり、呼吸を合わせたりすることによって、相手の波長に合わせる。
波長を合わせる、同調する・・。それが、自分自身を落ち着かせることにもなり、相手への寄り添う姿勢にもつながるのではないでしょうか。
④「逃げない姿勢」を相手に示す
「しっかりと目を見て・・」
強い感情をぶつける相手の目を見て話すということは、とても難しいことです。ただ、まっすぐに視線を捉え続けることで、何よりも「私は逃げませんよ」という姿勢を示すことができます。
睨みつけてはいけないけれど、少なくとも視線を逸らさない。対話を続けていこうとする姿勢を、視線によって示す。難しいけれど大切なことですね。
⑤反映を繰り返す
「利用者の言葉をただ短く繰り返します」
強い感情が相手を支配している時に、中途半端に共感を示す言葉は、ますます感情を煽る可能性があります。
「ああ、あなたはこう感じているんですね」ということをそのまま短いことばで返してみる。そうすると、まるで鏡のように、「ああ、自分はこう感じているんだ」ということが相手に伝わり、相手のテンションが下がって、次第に冷静になっていくことがあるものです。
何と言葉を発したらよいのかわからない、そんな時にも、相手の言葉をただ短く繰り返してみる。そんなアプローチが助けになることも多いのではないでしょうか。
相手の強い感情、言葉に怯みそうになるときのヒントをいただきました。
①自分の感情をキャッチし、
②状況を俯瞰してみる
③相手と波長を合わせ
④逃げない姿勢を示しつつ
⑤短く反映を繰り返す
相手の感情に引きずられそうになる時には、これらのヒントを活かしながら、自己コントロールを失わないようにすることが大切だと実感しています。
さて、このブログ。
今年はこれにて。
また年明けに、お目にかかりたく存じます。
どうぞ良いお年をお迎えください