ケアする人こそケアされなければならないと痛感した日
昨日、父が入院する前に生活していたサービス付き高齢者住宅に立ち寄りました。
用事を済ませ、ホールでエレベーターを待っていると、80歳代後半と思しきご婦人が話しかけてきました。
「私、まだお食事いただいていないんですけど・・」
白髪のその人は、本当に困ったという表情。
「そうですか・・、スタッフの方にお話ししてみましょうか」
そう応え、エレベーターで階下までご一緒しました。
実はその方と私は、何度か顔を合わせています。
いつも、「お食事、いただいていないんですけど・・」とお困り顔。
認知症とともにある彼女は、四六時中空腹感を抱えているようでした。
何か落ち着かないような表情のそのご婦人をヘルパーステーションにお連れしたところ、その前で一人の女性の介護士さんとバッタリ。
介護士さんは、40代前半でしょうか。
早速、彼女が「あのぉ・・、私、お食事いただいていないんですけど」と訴えると、その声が終るか終わらないうちから、介護士さんの表情はみるみる引きつり・・。
そして、腰の曲がったその人を見下ろすように、
「あのね、さっき、た・べ・ま・し・たっ!」
「薬も、の・み・ま・し・たっ!」
と、かなりの剣幕でした。
一音一音区切り、吐き捨てるようなヒステリックな物言いに、正直驚いてしまいました。
介護士さんの言葉からは、明らかな怒りが感じとれたのです。
ところが当のご婦人は、
「そうですか?だって、私、お腹がすいているんです。食べてないと思うけど・・」と譲りません。
介護士さんは、「ホント、これだからイヤになる」といううんざりした表情で、今度は無言。そしてその方の手を引いて、お部屋の方向に歩いていかれました。
認知症の方は、認知機能は衰えても最後まで感情は残ること、決して自尊心を傷つけてはならいこと。
きっと、耳にタコができるほど聞いておられるでしょう。
わかってはいても、毎日毎日、何度も何度も同じ訴えが続くことに、介護する側は抑えようのない苛立ちが募ってくるようでした。
介護士さんの尖った声に、何か追い詰められた余裕のなさや疲弊感を感じました。
「もうムリ!限界!」
約6年後の2025年には、認知症の方が730万人になるという推計もあるとか。
医療も福祉も、大変な人手不足。
ケアを必要とする人ばかりが増え、ケアする人がどんどんと職場を去って行く。
そんな図式で、どうやって超高齢社会を乗り切っていくのでしょう。
介護にあたるご家族はもちろんのこと、職種にかかわらず、ケアする人がケアされる世の中でなければならない。
本気で皆が支え合い、辛い胸の内を打ち明けて認め合い、繋がらなければならないと改めて痛感した一日でした。